一昨日、テレビで放映された「マツコの知らない世界」で、「天然たい焼きの世界」が特集されたことで、このブログへのアクセスが急増しています。2日で2000PVを超える数字は、世の中全体から見れば些細なものだと思いますが、日に数十件が普通のブログにとっては多少の事件かもしれません。


たいやき写真2



「天然もの」というのは、一個ずつ柄のついた「ハシ」と呼ばれる金型で焼くタイプのたい焼きのことです。ただ、この呼び方はたい焼きファンの俗称で、仕事としてやっている我々は「一丁焼き」と呼んでいます。(詳しくはこちら

 

 アクセスを集めているのは、「一丁焼きのたい焼き店は全国で108店 ~全国一丁焼きのたい焼き店調査~という記事です。番組内で「天然もののたい焼きは絶滅危惧種、全国で二十数軒しかない」と紹介されたので興味を持って検索し、うちの記事に行き当たった人がたくさんいらっしゃったようです。

 この記事は、ひっそりと店のホームページとブログだけで紹介しているもので、どこかにリンクしている訳でもないので、ほとんどの人が検索で見つけられたはずです。

 

「マツコの知らない世界」では、ゲストで登場する毎回のテーマの分野に詳しい人が案内役となり、その分野の情報を伝える構成です。今回の放送では、『たい焼きの魚拓』という本の著者の宮嶋康彦さんが案内をされていました。

「天然もの」という表現は、宮嶋さんがこの本の中で初めて使われました。ひとつひとつ焼く一丁焼きを、一本釣りの天然鯛になぞらえ、鉄板で一度に焼く量産タイプのたい焼きを「養殖もの」とされた表現は、多くの人が納得できるもので、その後徐々に広まり、今ではたい焼き好きな人なら誰でも使う言葉になりました。

 

 ただ、たい焼き屋として番組を見ていて少し気になったのは、宮嶋さんが紹介されている話と今のたい焼き業界をとりまく環境がやや違ってきているということです。

『たい焼きの魚拓』は2002年に発刊された本なので、既に15年が経っています。その間には、「白いたい焼き」や「クロワッサンたい焼き」といったブームがありました。また、たい焼き発祥の店と言う説もある浪花屋総本店さんが創業100周年を迎えたということで、マスコミに取り上げられる機会が増え、プチブーム的になっていた時期もありました。姫路の有名店「遊示堂」さんが「ひいらぎ」の名で東京に進出され、新しいタイプのたい焼きとして定着されたのもその間の出来事です。

 たい焼き屋は小資本でできる商売なので手軽に始められる反面、季節やブームに左右されやすいので、新しく始める店、廃業する店のどちらも多く、様相が変わりやすいのです。

 

 その中でも一番大きな変化は、番組でも紹介された「天然もののたい焼きは絶滅危惧種」という状況ではなくなっていることです。確かに15年前にはそのような状態だったのですが、その後、一丁焼きのたい焼きが見直され、新たに始める店が増えています。

 今回、アクセスを集めた記事にある「全国一丁焼きのたい焼き店調査」で20175月段階で全国に108軒ある一丁焼きのたい焼き店を見ても、半数以上が15年のうちにできた店でしょう。

うちの店もそのひとつなのですが、東京都内だけ見ても、少なくとも十数件の一丁焼きの店はこの15年のうちにできた店です。思いつくだけでも、よしかわさん、そらさん、写楽さんなどは新しい店です。また、一丁焼き最大のチェーンで全国に34店舗を展開されている鳴門鯛焼さんもここ15年以内のお店です。

 全国で108軒という店の数は決して多くなく、むしろ珍しいものであることは間違いありませんが、店は増える傾向にありますから、「絶滅危惧種」ではないと思います。

 

 一丁焼きのたい焼きが増えた理由はいくつか考えられます。上でも紹介した浪花屋総本店さんの100周年でマスコミでの露出が増え、一丁焼きについて見直す人が増えたことや、インターネットの普及により、東京、合羽橋の藤田道具さんのように、一丁焼きの道具を扱う店を検索して見つけることができるようになったことなどです。

 

 でも、それ以上に一丁焼きが増える要因となったのは、やはり宮嶋さんが作られた「天然もの」という言葉の影響ではないでしょうか。驚きがありユーモラスなこの言葉により、一丁焼きと量産型のたい焼き、つまり天然と養殖の違いを意識する人が増え、あえて一丁焼きで新規開業する人が増えたのだと思います。

 ですから、一丁焼きのたい焼きを“絶滅危惧種”とおっしゃった宮嶋さんご自身の影響で、今では“天然もの”は絶滅危惧状態を脱したのです。

 

 うちの店では“天然もの”という表現は使いませんが、多少なりともその言葉に影響をうけてはいますので、宮嶋さんに感謝しつつ、現状を説明させていただきました。