「たいやきを焼きたい」、基本的にうちで働きたいと言ってくれる人は、正社員であれ、アルバイトであれそう思って来てくれているのですが、技術を身につけるのに多少の時間はかかります。

焼き手の姿
たいやきのコナ(生地)をハシ(金型)に敷いてます。(新人ではありません)

■たいやきがお客さんに出せるまでに1か月、でもそれではまだ半人前

 うちの新人の研修は基本的にOJTです。店で実際に仕事をしながら覚えてもらっています。最初は基本的な接客、洗い物と片付け、かき氷の削り方、つぶ餡の仕込み、そしてたいやきを焼くという順番で仕事を覚えてもらいます。

 

 人にもよりますが、たいやきを焼く練習を始めてからお客さんに出せるようになるまでに1か月くらいかかるのが普通です。

勘の良い人であれば、焼き始めた初日にかなり良いものを焼くこともありますが、それでは商品になりません。たいやきは焼き上がると中身が見えないので、たまに上手く焼けているレベルではだめで、常に一定水準以上のものが焼けると認めてから、その人が焼いたたいやきを売り物にしています。

 

■ポイントは、しっかりと餡が詰められること

 ちゃんと焼けていると判断する基準は、餡がしっかりと詰まっているか、という点です。

 もちろん、焼きが足りなくて皮がふにゃふにゃになっていたり、逆に焼き過ぎて焦がしてしまうようなこともありますが、それらは失敗とも言えないくらい初歩的なこと、そうならずに焼けて当たり前です。焼く状態についてはある程度時間が決まっている上に、そこまで繊細な焼き上がりを求めていないからです。誰でも、何度か焼けば外見上はちゃんとしたたいやきを焼くことができます。

 

 問題は中身です。外見が良くても、中にギリギリまで餡を詰めないとともえ庵のたいやきとは言えません。頭の先から尻尾の先まで、完全に餡が行き渡ることが必要です。

餡の量が多いから美味しい、今はそんな時代ではないと思います。それでも、餡が行き渡ることにこだわるのは、餡が隅々まで行き渡ることで皮が薄く仕上がるからです。ともえ庵では、ぱりっとした皮の中に瑞々しいつぶ餡が入っているのが一番美味しいたいやきだと考えているので、胴回りだけでなく、頭も尾も皮が薄く仕上げています。そのためには、中身の餡を隅々まで入れなくてはならないのです。

(なお、たいやきの皮については、以前のブログ記事「本気で薄いたいやきの皮に詳しく書いています)

 

 隅々まで行き渡らせるには、コナの上に盛り付ける餡の形が重要です。小高く盛り付けることで、ハシを閉じたときに押し潰され、餡が隅々に押しやられます。この盛り付ける形と量を身につけるのが、焼く練習の最初の課題になります。

 そして、何匹焼いても安定して隅々まで餡が行き渡るようになれば、店で出せるようになります。

断面カット1小

断面カット2小

断面カット3小
新人の練習では、一匹ずつ頭、背びれ、腹、尾を切って隅々まで餡が入っているかどうか確かめます。
(これは熟練職人が焼いたものなので、隅々まで餡が行き渡っています)
 

■まともな焼き手になるには最低でも2か月かかります

 焼き手にとって自分が作ったたいやきが売り物になるのは嬉しいことです。でも、それだけでは一人前と言えません。たいやきを焼く職人にはもうひとつ、スピードが求められるからです。

 うちのたいやきの場合、ハシ(金型)に生地と餡を入れて火にかけてから約6分で焼き上がります。もちろん、次々と連続してハシに生地と餡を入れて火にかけていきますから、最初の一匹目は6分かかっても、1分くらいで次のたいやきが焼き上がり、その次も1分くらいと続きます。

 

 たいやきを焼く作業はこのようになります。

1)    火にかかっているハシを取り出し、開いて焼き上がったたいやきを取り外す

2)    ブラシでハシについた焼きかすをとり、油を薄く塗る

3)    ハシを水平に固定し、コナ(生地)を薄く敷く

4)    つぶ餡を盛り付ける

5)    つぶ餡を覆い隠す最低限のコナ(生地)をかける

6)    ハシを閉じて火にかける

7)    コナがハシから溢れている場合には、ある程度焼けてからこそげとる

 

この一連の作業を、うちの場合は45秒かけずにできるのが理想です。これを続ければ、45秒に一匹のたいやきが焼き上がるのですが、実際にはハシからたいやきが一度で離れなかったり、焼き台の火が散ったり、白玉たいやきや月替りたいやきを並行して焼いたりするので、およそ1分に一匹のペースになってしまいます。とはいえ、最速では45秒以内のペースでたいやきの出し入れができるようになる必要があるのに違いはありません。

 

 テレビ番組で見たのですが、たい焼き御三家の有名店では30秒で出し入れしているそうです。この出し入れのスピードがピークの売上を決めるのでうらやましい限りですが、うちの場合、ハシの型が深いのと、コナ、餡ともはるかに緩いものを使っているので、そのスピードは出ないと諦めています。

 

 ちゃんとしたスピードで焼く場合に使うハシは8本。新人はまず少ない本数で確実に焼ける腕を身につけ、あまり忙しくない時間帯などに焼きを担当しながら少しずつスピードを身につけて、多い本数で回せるように成長していきます。

 8本で回せるようになるのは、これも個人差がありますが2か月以上かかるのが普通です。

中には、何か月も働いて8本に到達できないまま辞めていく人もいますが、それはごく少数。ほとんどの人は、時間こそかかってもこの水準に到達します。

 

 なので、うちの店で新人がまともな戦力に育ってくれるまでには最低でも2か月必要ということになります。

 

■その後も成長は続きます

2か月で一人前」と聞くとどのように感じるでしょうか。たいやきを簡単なものだと思っている人にとっては長く感じるかもしれませんが、職人の仕事と考えるなら、意外に短いと思うのではないでしょうか。

 

 これは、うちを含めてたいやき屋という仕事が単品商売だからです。

正直なところ、集中して練習できるなら、どんな料理であれ一種類ならそれほど長い時間を要せずにできるようになると思います。レシピや手順が固まっており、ひたすら繰り返して練習をすればよいからです。

しかし、それができれば職人と言える訳ではありません。本当の職人は、環境が変化しても常に変わらない味が出せることはもちろん、レシピや手順を改善し、創り出す側の人間のことだと思います。それができなければ、まだまだ“職人を目指す人”に過ぎません。

 

 また、焼くスピードについても2か月でゴールに到達している訳ではありません。1時間に4050匹を焼くまでは比較的早く身についても、そこから60匹、70匹と増やすにはかなりの修業と熟練が必要です。

 スピード勝負になる「ともえ庵の日」には、ベテラン勢は1時間に80匹を超える数を焼くこともあります。もちろんそのスピードでも、餡はきれいに詰まっています。(参考:「毎月10日はともえ庵の日

 

 2か月目以降は、時間をかけてこうした水準を目指していくのです。

 

 

 現在、男女1名ずつの新人のスタッフが、たいやきを焼く職人技を習得すべく研修に励んでいます。彼らが少しでも早く腕を上げ、お客さんに喜んでいただけるたいやきを焼いてくれることを願ってやみません。