餡練り機小

 たい焼きの中で存在感を示し、味を左右する存在である餡、ともえ庵で使っている餡について何度かに分けてご紹介します。
 

■たい焼きの餡は、「つぶし餡」です。

餡というと、粒が完全に残っている「粒餡」、小豆の皮を取り除いて水に晒して作る「漉し餡」が知られています。なので、店でも「粒餡? 漉し餡?」と尋ねられると、小豆の皮を取り除かないで粒が残っているという意味で「粒餡です」と答えさせていただくのですが、厳密には「つぶし餡」というのが正解です。

 小豆を炊いて生餡(なまあん)を作るまでは同じなのですが、その後、できるだけ混ぜずに小豆の粒を残したまま糖分を加えるのが「粒餡」で、生餡に砂糖を加え、攪拌して粒をつぶしながら仕上げるのが「つぶし餡」です。

 たいやきに使われる餡は基本的に「つぶし餡」ですが、ともえ庵では比較的つぶしを弱く、粒が多く残るように仕上げています。

 

 

つぶあんwiki

「粒餡」 粒を潰さずに糖分を含ませて仕上げています。(wikipediaから拝借しました)

 

 

こしあん

「漉し餡」小豆の皮を取り除き、水にさらして仕上げます。

(下にリンクしたサイトより拝借しました)

 

 

ともえ庵のつぶし餡アップ

ともえ庵で作っている「つぶし餡」、かなりアップの写真です。
うちだけでなく、たいやきには一般的につぶし餡が使われます。

 

 なお、まれに「小倉」と注文をいただくこともあるのですが、小倉餡は漉し餡に粒餡を混ぜたものなのでまったく違うものです。

 

 このサイトの説明が分かりやすいですね。

 http://lowch.com/archives/13492

 

■他にないくらい甘くない(糖度の低い)餡を使っています

 美味しさの秘密、というのはおこがましいのですが、特に強く意識しているのは、餡の糖度、つまり砂糖の量です。たいやきとしてはかなり低くしています。

 ともえ庵を始めようとした際に、最初に購入した道具は、焼き台でもハシ(たいやきの型)でもなく、糖度計でした。それを持って「御三家」さんをはじめ、美味しいと評判のたいやき屋さんに出向き、購入して餡の糖度をこっそりと測定しました。やはり評判の良い店の多くは、低糖度の餡を使われていました。

 

アタゴ糖度計

株式会社アタゴさんのペンタイプの糖度計。これは最新のものですが、当時の同じタイプのものを購入しました。

 

 餡の糖度は菓子により違います。甘い餡を使うモナカなどの場合は70度程度が普通です。それ以外の最近の和菓子の餡はもっと糖度が低いのが普通で、50度代、50度を下回ると低糖度と言われるようです。

 

 たいやきに限らず、餡の美味しさを表現する際に「甘さ控えめの」という言葉がよく使われます。甘味でありながら甘さを控えたほうが美味しいというのは矛盾するようですが、それは共通認識と言ってもいいでしょう。

 もちろん、どの程度の甘さを求めるかは人により違いますし、食べる状況によっても変わります。甘さに飢えた時代を経験されている高齢の方は糖度の高いものを好まれ、それよりも若い世代は抑えた糖度を好まれる傾向があるようです。

また、都会のほうが地方に比べて抑えた甘さを好む人が多いという傾向もあります。20年くらい前、仕事で全国を飛びまわっていたときに、自動販売機で売られる缶コーヒーを見ると、都会では無糖タイプの品揃えが多く、地方では少ないことに気づきました。消費の経験が多いほど甘さを抑えたものが好まれるのか、都会の人の運動量が少ないのでそうなるのか、理由は定かではありませんが。

 

 とにかく、これからの菓子はできるだけ甘さを抑えた餡が合うだろうと考え、どこよりも糖度の低い餡を作ってみました。結果、小豆の風味がより感じられる餡が仕上がりました。

 糖度が低い餡は、色が薄く、紫がかった漢字に仕上がるので、見てくれも美しく、味も良い、まさに言うことなし・・・なら良いのですが、致命的な弱点があります。日持ちがしないのです。

 

 砂糖は天然の甘味料であると同時に、天然の保存料でもあるのです。塩分濃度や糖度が高い環境では細菌は繁殖できないので、塩漬け、砂糖漬けの食品は昔から保存食として使用されてきました。塩漬けの肉や缶詰の果物などです。

ただし、細菌が繁殖しにくくなるのは、食塩濃度10%以上、もしくは糖度65%以上なので、糖度を下げた餡には保存性はまったく期待できません。煮豆は足が早い(痛みやすい)と言われますが、糖度の低い餡は「甘い小豆の煮物」みたいなものなので、同様に足が早いのです。

 逆に、餡の糖度が高くなると、色が濃く硬くなります。昔の紅白饅頭は真っ黒な硬い餡で、半分に割ると皮と一緒に餡も割れましたが、あれがもっとも日持ちがする糖度が高い餡なのです。

世の中の和菓子屋さんが簡単に餡の糖度を下げることができない理由がよく分かりました。

 

 そこでうちでは、「仕込んだ餡は当日中に使い切り、余ったら捨てる」ことにしました。美味しいと分かっているなら、日持ちは犠牲にして、毎日売り切れる店になることを目指そうと決めたのです。

 おかげさまで、多少は人気のある店になりましたが、毎日売り切れとはいかないので、現在でも、閉店後に最初残った餡をゴミ箱に入れています。かき氷や阿佐ヶ谷練乳餅に添える餡は冷めていないといけないので、前日に作って冷蔵庫で冷やしたものを使っていますが、それも売れ残ったら捨てます。毎日のことになっても捨てることには慣れることができず、心を痛めていますが、妥協はできません。

 

 念のため付け加えますが、餡が翌日までしかもたないという訳ではありません。冷蔵庫に入れておけば1週間は平気で使えます。うちのスタッフも、自宅で餡を食べる場合にはそうしています。

 ただ、お客さんにお出しするものについては、できるだけベストなものにしたいという想いから、泣く泣く餡を捨てているのです。

 

■さっぱりとした甘さに仕上げるためグラニュー糖を使っています

 砂糖で重要なのは糖度だけではありません。使用する砂糖の酒類により、餡の味が変わります。

 砂糖は、大きく分けてサトウキビ由来のものと、てんさい(サトウダイコン)由来のてんさい糖があります。サトウキビ由来の中にも、精製されていない黒糖、精製された上白糖やグラニュー糖、精製後にショ糖を取り出した残りから作る三温糖などがあります。

 

 うちでは、製菓に使われることが多いグラニュー糖を使っています。口の中に甘さが長く残らない、さっぱりとした餡に仕上げたいからです。

古くからある和菓子屋さんなどでは黒糖や、場合によっては水あめなども使っておられるようです。黒糖の風味やコクは濃い味の餡にはぴったりですが、ともえ庵が目指す薄味の餡には合わないため、試してみて、グラニュー糖だけを使う方が良いと判断しました。

 

 

 ともえ庵のたいやきは、よそのお店に比べて皮を薄く仕上げています。そのため、必然的に餡の量が多くなります。それでも、美味しく食べていただけるのは糖度を抑えてさっぱりと仕上げているから。そのために、上に書いたように「捨てる覚悟」で作っています。

 とはいえ、食べ物を捨てるのは本当に辛いこと、一日も早く毎日確実に売り切れる店になることを目指しています。