ポスター焼型

 たい焼き好きな人なら「天然もの」、「養殖もの」という言葉を聞いたことがあると思います。最近はテレビなどでも紹介されるので一般的になってきているようで、うちの店でも「あっ、天然ものなんですね」などと声をかけていただくことが増えています。

 

 とはいえ、特段たい焼きに興味がない人からすれば「たい焼きなのに、天然も養殖もあるか」と思うのは当たり前です。

「天然もの」は、たい焼きの金型にそれぞれ取っ手が付いていて、一匹ずつ焼くタイプのたい焼きで、昔ながらの手法です。それに対して、「養殖もの」は鉄板に56匹のたい焼きの型が彫ってあり、二枚の鉄板を合わせてまとめて焼き上げる方法で焼かれたものです。

たいやき写真2
うちで使用している「一丁焼き 」の金型。

 

養殖ものたい焼き機

 「養殖もの」と呼ばれる普通のたい焼き器、持ってないのでネットから画像を拝借しました
 

 一本釣りのイメージからだと思うのですが、ものが鯛だけに絶妙な表現だと思います。

 元々は「天然もの」だったのが、量産ができる「養殖もの」に押されて数が減り、貴重なものになっていることも、この比喩がしっくりくるところです。

 

 とはいえ、「天然もの」という表現はたい焼き好きなお客さん側のもので、作っている側はあまり使うことがありません。一番普通に使うのは「一丁焼き(いっちょうやき)」という言葉です。

 また、「養殖もの」に当たる言葉はありません。あえて対比して書く場合、他所の記事などでは「量産タイプ」というように書かれていますが、おそらく普通に「たい焼き」と言った場合にはこちらを指すので、特別な言葉ができなかったのではないかと思われます。

 

 実は「天然もの」はかなり新しい表現です。2002年に発刊された宮嶋康彦さんの著作『たい焼の魚拓』の中で宮嶋さんがたい焼きを分類するのに使われたのが最初だと言われています。

 なので、言葉にはまだ15年くらいの歴史しかないのですが、本当に絶妙な表現なので、かなり一般に浸透してきているのです。

たい焼きの魚拓表紙

宮嶋康彦『たい焼の魚拓』 天然ものという表現だけでなく、たい焼きの名店を巡り、一匹ずつ魚拓に残すというユニークかつ丁寧な書籍。さすがに「この後、スタッフが美味しくいただきました」とは書かれていない。

 

 ただ、この表現が素晴らしいが故に問題もあります。厳密に定義が決まっていないので、「天然もの」を名乗った者勝ちみたいな雰囲気も生まれているのです。一丁焼きではなく、二匹取りの型を使っているところや、金型が焼き台に固定されているところなど、どこまでを「天然もの」と言うのか判断がつかないので、自称したもの勝ちになっているのです。

さらに、「天然鯛焼き」を商標登録している会社まで出てきています。言い出された宮嶋さんが登録されるのなら構わないのですが、そうでない会社が独占するのはどうかと思います。

 

 もうひとつ、知っていただきたいのは、「天然もの=美味しい」という訳ではなく、ましてや「養殖もの=不味い」ということはないということです。

「天然もの」のたい焼き店は少なく、貴重であることは間違いありません。それでも、美味しさは店によって違います。食べ歩くと、一丁焼きの良さをまったく活かせてない「天然もの」もあれば、独自の焼き方を研究され、量産タイプの「養殖もの」でも本当に美味しい店もあります。また、賛否の分かれるところですが、お好み焼きの具を入れるような、今までにないタイプのたい焼きは金型が固定されている「養殖もの」でないとできません。

 要は店のやり方とお客さんの好み次第だということです。

 

 とはいえ、うちの店では全員が本気で一丁焼きの良さに惚れ込み、それを最大限に活かすための技術を磨いて焼いているつもりです。もちろん、作る側なので「天然もの」とは言いませんが。